「経済論文abstractの効果的な書き方」論文を読んでみた。

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大本道央著 「経済論文abstractの効果的な書き方」(日本実用英語学会論叢, No.12, September 2007)を読了。この学術誌は日本実用英語学会が発行しており、過去論文をインターネットで読むことができます。

「経済論文のabstractの効果的な書き方」について論じていると思ってこの論文を読むと期待を裏切られます。「経済論文のabstractの効果的な書き方」についてはほとんど書かれていない不思議な論文です。:タイトルが正しければ、論文の中で特に経済学者が執筆する経済論文に、また論文の中で特にアブストラクトの書き方について分析しているはずです。

two-by-two tableで考えると、著者の大本氏はCについて語ると言っているわけです。

英語論文 学術論文 経済学論文
学術論文 A B
アブストラクト D C

しかし、この論文の中で書かれている英語の書き方の注意点はほとんどがCではなくて、Dに属しています。だから、経済学徒がアブストラクトの書き方について学びたいと思ってこの論文を読んでもあんまり意味のない感じがします。ただし、アカデミックな論文を執筆する際の注意点についてはいろいろ有用なことも指摘していますのでこの論文の内容を簡単に紹介します。

D. 英語論文のアブストラクトを執筆する際の注意点(ただし指摘の多くはAにも相当します)

D1: アブストラクトの要件
大本氏は「2. Abstractの要件」という項目でThe American Psychological Associationに載ってある注意点を述べています。ちなみにこのThe American Psychological Associationが定期的に出版している論文執筆要項は心理学以外の分野でも広く利用されています。

「abstractは情報豊富でいて、読みやすく、上手にまとめられていて、簡潔で、完全でなくてはならない。また、利用者がabstractを見つける能力を高めるように、多くのキーワードを埋め込まなくてはならない」(p. 77)とした上で、よいabstractを作成する要件として以下の5項目を挙げています。

1. accurate 正確な
論文の目的と内容を正確に表すこと。論文に書いていないことは書かない。「先行研究を発展させたり繰り返したりした研究である場合は、その旨明記し、先行研究の著者名(名前やミドルネームの頭文字と名字)と発表年を記す」(p.78)。

2. self-contained 完全な
「論文を読まなくてもabstractを読んだだけでわかるように、略語や頭字語、独自の用語はすべて定義する。」(p.78)

3. concise and specific 簡潔で具体的な
「なお、数をすべて数字で表記する、略語を多用する、 I”や “we”を用いずに能動態にすることも簡潔にする方法である。」(p.78)

4. nonevaluative 評価しない
「論文を評価するのではなく、論文に何が書かれているか伝える。」(p.78)

5. coherent and readable 文体など首尾一貫していて読みやすい
「名詞よりは動詞を能動態にして用いるなど、明瞭で力強い文を書く。三人称を用い、  “Policy implications are discussed” や  “It is concluded that”など意味のないお決まりの文句を用いない。」(p.78)

感想が4つほどあります。

①「先行研究を発展させたり繰り返したりした研究である場合は、その旨明記し、先行研究の著者名(名前やミドルネームの頭文字と名字)と発表年を記す」と書かれてありますが、「名前やミドルネームの頭文字と名字」という表現がおかしいです。これだと「名前」もしくは「ミドルネームの頭文字と名字」という意味になりますが、「名字だけ」もしくは「名前+ミドルネーム+名字」のいずれかでないとおかしいでしょう。ところで、アブストラクトに(Jones, 1989)という風に名前と発表年を記してもこれだけでのどの論文かわからないのでReferencesにJonesさんが1989年に出版した文献名を載せないといけません。しかしアブストラクトにReferencesを載せることはありません。本文のReferencesに載ってあるからそれを確認しろということなのでしょうか。

②78ページに「先行研究を発展させたり繰り返したりした研究である場合は、その旨明記し、先行研究の著者名(名前やミドルネームの頭文字と名字)と発表年を記す」と書いてあるにもかかわらず、79ページには「また、abstractで先行研究について言及するのは、文書の目的を明確にするのに必要な場合においてのみ」である。と書かれています。前者はThe American Psychological Association、後者はNational Information Standards Organizationが発行しているGuidlines for Abstractsに書いてあったことを何の吟味をせずに紹介しているのでこういう矛盾が生じています。本論文の目的は経済学論文のアブストラクトの書き方なので、経済学アブストラクトではどう先行研究を取り扱っているのかちゃんと調べて欲しいものです。

③「数をすべて数字で表記する」と書かれていますが、英語では数字が文の一番最初に来るときはアルファベットで書くという慣行があります。
412 members of this club was examined…
では数字が文の最初に来ているので
Four hundred tweleve members…
と書かないといけないわけです。The American Psychological Associationでは後者のような書き方もするなと言っているのでしょうか。その辺りもちゃんと掘り下げて欲しいです。

④ 「 “I”や “we”を用いずに能動態にすることも簡潔にする方法である」の意味がよくわかりません。ちなみに82ページには「主語には三人称か一人称複数の “we” を用いる。」と書かれています。こういう異なることを同じ論文に併記しないでほしいものです。一応、正解だけ言うとweを用いてかまいません。学術論文で一人称を使うのは望ましくないという慣行が昔にはありましたが、いまではweという主語は普通に使います。

D2: アブストラクトの段落構成
「abstractの段落構成」という項目で「一般に1段落」(p. 78)と説明されています。経済学に限らず、どの分野でもアブストラクトは改行しないというのが基本です。だから改行されてある和文要旨を英訳するときは同じように改行しないように気をつけてください。

D3: タイトルとアブストラクトの連関性
The Royal Society (1974)によれば、「タイトルは、普通、abstractの一部として読まれ」、abstractの「冒頭文はタイトルに従って書かれる」。ただし、「タイトルの繰り返しは避ける」。「タイトルを見て内容が十分理解できるものでない場合には、冒頭文で、論文が扱う主題を示す」が、「ふつう、冒頭文では研究目的を示す」。」(p.79)、「abstractはタイトルに続けて読まれるので、タイトルで使われた言葉あるいはそれとよく似た言葉を逐語的に用いることを避ける。」(p.79)」と説明されています。

タイトルとアブストラクトは連関しているという指摘は大事です。皆さんも、タイトルで使って文句をそのままアブストラクトに書くことのないように気をつけましょう。

D4: アブストラクトの態と時制
「abstractの動詞形(態と時制)」という項目でできる限り能動態を使うべきと議論された後に、時制は基本的に単純現在時制を用いる。「特に、論文の細部に示される、特定の過去において生じた結果について触れるのでなければ、時制はほとんど単純現在時制になる。」(p.80)と説明されています。研究は過去におこなったことなので過去形でアブストラクトを書く人をたまに見かけます。基本、現在形で書くようにしてください。

D5: 和文要旨と英文アブストラクトの違い
「英語におけるabstractには日本語でアブストラクトを書く場合よりも厳密な書き方のルールがある。だから、論文のabstractを英語で書く場合、日本語で書いたアブストラクトをそのまま英語に翻訳しても効果的なabstractになるとは限らない。」(p.82)というのは本当にそうです。私も年に100本以上のアブストラクトを校正していますが、和文要旨の直訳をすることはありません。和文要旨を英訳してくれと頼まれたときは、本文も読んでから和文要旨をかなり「意訳」します。

 

C. 英語で経済学論文のアブストラクトを執筆する際の注意点

この論文で経済学論文にのみ当てはまる助言として唯一あげられるのが、「インターネットのサイトにabstractや論文を掲載しているほとんどの経済論文誌は100語以内と規定している。」(p.78)という指摘です。

これはほぼ唯一の「経済学論文のアブストラクト」に特化した情報です。科学論文もアブストラクトの語数は少ないですが、社会学や政治学等の他の首魁科学の分野ではアブストラクトがもっと長い傾向があります。もちろん経済学論文だとどこもアブストラクトが100 WORDS以下というわけではありません。例えば、行動経済学会が発行している「行動経済学」では150ワード程度という規定になっています。

 

最後にこの論文を読んで理解できなかったものを3点あげます。

※「6.2 前提」という項目での以下の文章:
「研究、調査などを行うに至った経緯を述べたり、The Royal Society (1974)では、「冒頭文で論文が扱う主題を示す場合には、主題を説明するために、主題の定義を行ったり、背景となる知識を与えたりする」という。前提は任意項目で、書く場合でも簡潔にする。」(p.79)

何を言っているのかよくわかりません。日本語も不自然です。

※「6.4 結果」では「descriptiveな手法でも書かれる場合が多い。」、「6.6 結論」では「descriptiveな手法では書かれない。」(p.80)と書かれていますが、その理由がよくわかりません。

※「なお、目的を示す文では、study, exploit, exploreなどの単に「研究・探索する」ことを表す動詞よりは、compare, model, reviewなどの論文の内容を明確に表す動詞を選ぶのがよい。その他、目的を表す動詞には、analyze, argue, assess, characterize, describe, estimate, evaluate, examine, introduce, investigage, measure, outlien, present, report, sketch, summarize, testなどが用いられる。」(p.81)と書かれていますが、study, exploit, exploreがダメで、analyze, argue, assess…らがオーケーな理由がよくわかりません。

たった7ページの論文なので著者の方はもっとしっかり下準備をした上で論文を書くべきだと思います。

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8月 13, 2013 · Pukuro · No Comments
Posted in: ■英作文豆知識

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