博士号を剥奪された東京大学のアニリール・セルカンさんと早稲田大学の晏英さんとコンスタンツ大学のヤン・ヘンドリック・シェーンさん

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昨日から小保方晴子さんの博士号を剥奪されなかったことに関して驚きのコメントがツイッターその他であふれかえっています。以下、読売新聞の記事から抜粋。

理化学研究所の小保方晴子ユニットリーダーが2011年に早稲田大に提出した博士論文について、早大の調査委員会(委員長・小林英明弁護士)は17日、6か所で盗用などの不正があったと認定する報告書を公表した。

だが、早大の規定上、「小保方氏の博士号の取り消しには該当しない」とした。

 この論文は、あらゆる細胞に変わる能力を持つ細胞が骨髄にあることを示したもの。撤回された英科学誌ネイチャーのSTAP(スタップ)細胞論文の原点にあたる。今年2月に問題が指摘され、外部の有識者を含む計5人による早大調査委が3月から調べていた。委員長以外の委員の名前は公表されていない。

 小保方氏は、この博士論文は、誤って提出した途中版のものが最終版のような扱いになったと主張。調査委はこれを認めたうえで、小保方氏から正式とされる論文の提出を受けたという。

 調査委は、6か所の不正以外にも多数の不適切な記載があったことで、「内容の信ぴょう性、妥当性は著しく低い」と判断した。「論文の審査時間がほとんどないなど重大な不備がなければ、到底博士号が授与されることは考えられなかった」と早大の論文審査を批判。「指導教員は非常に重い責任がある」と指摘した。

 早大の規定は、不正な方法による学位取得を学位取り消しの要件としている。調査委は、この要件は不正が学位授与に重大な影響を与えた場合に成立すると指摘。今回の不正は、博士論文の根幹となる実験結果を偽ったものではなく、要件に該当しないと判断した。
http://www.yomiuri.co.jp/science/20140717-OYT1T50077.html

えっ、コピペだらけの途中版の論文を博士号に値すると判断されて博士号を授与したんですか?

産経ニュースの記事も抜粋。

理化学研究所の小保方晴子研究ユニットリーダー(30)の博士論文について不正を認定した早稲田大の調査委員長、小林英明弁護士は17日の会見で「データ管理のずさんさ、注意力の不足、論文作成に対する真剣味の欠如などがあった」と述べ、小保方氏の研究に対する姿勢を厳しく指摘した。

 盗用を一部認定しながら、博士号の取り消しに該当しないとの判断には疑問の声も出ているが「学位の授与は法律行為であり、心情的におかしいと思っても取り消せない」と説明した。

 早稲田大の鎌田薫総長は調査委の報告について「いま受け取ったばかり。対応はこれから考える」と厳しい表情。学位取り消しの判断について「最終的にどうするかは、われわれの側にある」とし、現時点では取り消す可能性も残っているとの認識を示した。

 一方、小保方氏の代理人、三木秀夫弁護士は同日、調査委の報告について、小保方氏から「ありがとうございました」などとメールがあったことを明らかにした。小保方氏は安堵した様子だったという。三木弁護士は「報告書を尊重してほしい」と学位を取り消さないよう求めた。
http://sankei.jp.msn.com/affairs/news/140717/crm14071722120026-n1.htm

小保方さんが提出した論文は到底博士号授与には値しないが、学位授与は法律行為なので簡単には取り消せないそうです。

へえー、いったん博士号をあげたら、後で問題が発覚してもその決定を取り下げることはできないんですか。

へえー、知らんかった。

 

たしか東大に博士号を剥奪されたトルコ人がいたはずだからいま確認したら、アニリール・セルカンという名前の人でした。この人は博士号を取り消されていますが、「東京大学創立以来初の学位取り消し処分」だそうです。

やはり学位取り消しのハードルは高いんですねえ。

でも学位取り消しの理由はおぼちゃんと同じ、「文献やインターネットから文章や図表を盗用」だそうです。

東京大は5日、学位授与のもとになった論文に盗用など重大な不正がみつかったとして、工学系研究科に所属するトルコ人のアニリール・セルカン助教(36)=休職中=の博士号を取り消したと発表した。本人も盗用を認めたという。

 東京大によると、不正があったのはセルカン助教が2003年3月に工学博士号を取得する際に提出した、宇宙基地や宇宙ビジネスに関連する英語論文。全376ページのうち約4割に当たる計149ページで、文献やインターネットから文章や図表を盗用しているのが見つかった。

 盗用文の一部を変えて自分のアイデアを記述したかのように偽装している悪質な例もあった。

 セルカン助教は1999年に国費留学生として東京大に入学、博士号を得て2005年に助手(現・助教)となった。日本語による複数の著書があり、マスコミにもしばしば登場していた。
http://www.47news.jp/CN/201003/CN2010030501000631.html

 

【早稲田大学・大学院先進理工学研究科における博士学位論文に関する調査委員会】の報告書はここで読めます。
http://www.waseda.jp/jp/news14/data/140328_committee.pdf

早稲田大学がひとたび学位を授与したら、それを取り消すことは容易ではない。それほど学位の授与は重みのあるものである。早稲田大学において学位審査に関与する者は、その重さを十分に認識すべきである。
とのこと。

東大ではできて早稲田にはできない学位取り消しとは…

あれっ? たしか早稲田大学で博士号を取り消された人がいたぞ。調べてみたらやっぱりいた。

早稲田大学
2013/10/21
2013/12/26追記

早稲田大学は、下記のとおり、不正の方法により学位の授与を受けた事実が判明しましたので、当該学位について、授与の取り消しを決定しました。現在、本人に学位記の返還を求めています。(注:後日学位記の返還があった。2013年12月26日追記)

  • 氏名:晏 英〔博士(公共経営)、大学院公共経営研究科2010年9月15日授与〕
  • 論文タイトル:「近代立憲主義の原理から見た現行中国憲法――ソ連的マルクス主義の影響を踏まえて――」

博士学位授与論文において、少なくとも64カ所にわたり不適切な引用がなされており、そのうち12カ所においては晏氏自身の見解であるとして論述されている部分について、他者が作成した文献から無断で盗用している。早稲田大学学位規則第23条に規定されている「不正の方法により学位の授与を受けた事実」にあたると認定。
http://www.waseda.jp/jp/news13/131021_degree.html

この人は12の盗用で博士号剥奪。小保方さんは調査委員会の報告書を見ると、「著作権侵害行為であり、かつ創作者誤認惹起行為といえる箇所—11箇所」…

11まではオーケーで剽窃が12以上だったら早稲田ではPh.Dとれないわけなのですね(´・_・`)

シェーンさんはどうだったんだろう? 科学史上最悪のねつ造と見なされているのがアメリカ・ベル研究所の物理学研究者であったヤン・ヘンドリック・シェーン(Jan Hendrik Schön 1970年 – )の高温超伝導研究です。松村秀さんの『論文捏造』(中公新書ラクレ)にこの事件が詳細に分析されています。https://www.ieice.org/jpn/books/kaishikiji/2007/200701.pdf

捏造の舞台はアメリカが世界に誇る科学の殿堂,ベル研究所.過去にノーベル賞受賞者を11名も輩出している名門だ.ここに所属していた,当時まだ30歳そこそこの若き天才科学者,ヤン・ヘンドリック・シェーンが,有機物の超伝導を全く新しい仕組みで実現,その臨界温度はなんと117Kもの高温を記録するに至った.有機物では文句なしの世界記録である.シェーンの研究成果は計63本の論文にまとめられ,うち「ネイチャー」誌に7本,「サイエンス」誌には9本もの論文がわずか3年のうちに掲載されるというとてつもない快挙を成し遂げたのだった.世界中の100以上の研究チームが慌てて追試に追われ,10億円以上もの資金が使われたという.物理界は熱狂の渦に巻き込まれた.やがてシェーンは,ノーベル物理学賞の有力候補とまでいわれるようになる.

この63本の研究がすべてでたらめだったわけです。

schon.jpg当然のことながらシェーンはベル研究所から追い出され、物理学の研究もやっていないのですが、彼は博士号を剥奪されなかったんだろうか? 確認してみたら、博士号を失ったという記事がありました。

Jan Hendrik Schön Loses His Ph.D.By Gretchen Vogel 19 September 2011 3:45 pm

Jan Hendrik Schön Loses His Ph.D.By Gretchen Vogel 19 September 2011 3:45 pm
BERLIN—A German court has ruled that it is legal to revoke the Ph.D. of disgraced physicist Jan Hendrik Schön. Schön was the center of a spectacular scandal in 2002, and the University of Konstanz revoked his Ph.D. in 2004. Although a university investigation turned up no evidence that Schön had committed misconduct while at the university, university officials asked Schön to return his doctoral certificate based on a state law that allows degrees to be revoked when the recipient proves “unworthy.” Schön was found to have faked data in at least 17 papers while he was a researcher at Bell Laboratories in Murray Hill, New Jersey.

Schön sued the university, and last year a court ruled in his favor. The university appealed, however, and last week the Administrative Court of Baden-Württemberg in Mannheim ruled that the university was within its rights to rescind the degree. The awarding of a doctorate is a confirmation of the recipient’s ability to conduct independent scientific research, Judge Reinhard Schwan said in his oral explanation of the verdict last week. A Ph.D. brings with it the public perception of being a member of the scientific community and a presumed high level of trustworthiness, the judge said. When a recipient has violated basic principles of good scientific practice, the title is no longer applicable and should be corrected, he said. He also noted that Schön can still find work as a physicist without a Ph.D. title. Schön is reportedly employed as a process engineer for a company in Germany.

The Baden-Württemberg court said that it would not hear an appeal of its ruling. Schön has 1 month to appeal that decision to a federal court. His lawyer has told German media that he won’t rule out an appeal, but Schön’s chances of success are considered slim.

Posted in Europe, Education

ドイツの裁判所はシェーンの博士号を取り消すのが合法的だと判決したという記事です。彼は1997年にドイツ九大エリート大学のひとつとされるコンスタンツ大学で博士号を授与されますが、シェーン論文ねつ造事件発覚後の2004年に博士号を剥奪します。彼は大学を訴え、一度は彼の主張が認められますが大学側は控訴し、2011年9月に大学側の主張が認められ、シェーンの博士号取り消しが決まります。重要なのは太字の部分です。この判決のすごいところは、博士論文での不正が認められなくても博士号を剥奪することができると裁判所が主張していることです。要するに博士号の授与というのは、科学コミュニティーの一員として科学的研究を独立して行っても構わないということを保証するものだから、博士号取得後にその信頼性が失われたら、大学は博士号を取り消すことができる、というわけです。

http://blogs.nature.com/news/2011/09/jan_hendrik_schn_loses_his_phd.html でもlater misconduct also showed ‘unworthiness’ to hold the doctorate

と書かれています。

ただし、ここで話が終わっていませんでした。Wikipediaによると

In June 2004 the University of Konstanz issued a press release stating that Schön’s doctoral degree had been revoked due to “dishonourable conduct”. Department of Physics spokesman Wolfgang Dieterich called the affair the “biggest fraud in physics in the last 50 years” and said that the “credibility of science had been brought into disrepute”. Schön appealed the ruling, but on October 28, 2009 it was upheld by the University. In response, Schön sued the University, and appeared in court to testify on September 23, 2010. The court overturned the University’s decision on September 27, 2010 meaning that Schön can keep his doctoral degree. In November 2010 the University moved to appeal the court’s ruling.The state court ruled in September 2011 that the university was correct in revoking his doctorate. The Federal Administrative Court upheld the state court’s decision on 31 July 2013.

2009年の判決後にシェーンは大学を訴え、2010年9月27日にシェーンは博士号を保持できるという判決をします。するとコンスタンツ大学がまた控訴し2011年9月に大学は博士号を剥奪してもいいよという判決が出ます。そして2013年7月31日に連邦行政裁判所は大学の博士号剥奪を認めた州裁判所の判決を支持します。

これが最終判決みたいですね。

7月 20, 2014 · Pukuro · No Comments
Posted in: 雑談

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