ただでアメリカの大学の授業を受ける: (1) FathomとAllLearnの失敗

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Unlocking the Gates: How and Why Leading Universities Are Opening Up Access to Their Courses by Taylor Walsh (Princeton University Press, 2011)読了。

Unlocking the Gates

本書でWalshはアメリカの大学でOCWが始まり、それが定着した理由を探ります。OCWはOpenCoureWareの略称です。日本語ではそのままオープンコースウェアと訳されます。OCWとは2003年9月にマサチューセッツ工科大学(MIT)が始めたオンライン講座のことですが、そのままこの用語が一般に定着し、大学がインターネット上に講義の映像や音声を提供し、また講義の関連情報を公開することをOCWと呼ぶようになりました。OCWの重要ポイントは①無料で利用可能であり、②単位はもらえない、の2点です。講義に関する情報をネットに配信するためには、多額のお金がかかります。では、なぜ大学はネット聴講者からお金をとろうとしないのでしょうか。なぜ授業料を1円ももらえないのに、インターネットに講義を公開するのでしょうか。日本の大学と異なり、アメリカの大学では別の大学で取得した単位の移行が比較的簡単に認められます。だとすると、お金を払って別の大学の講義をインターネットで受け、その単位を認めてもらう、という方式にすれば、大学はインターネット上に講義を有料で提供することでお金を稼ぐことができます。インターネット講座に特化したオンライン大学(例えば、アリゾナ州のフェニックス大学)はすでにあり、ネームバリューが高いエリート大学もオンライン講座で授業料を稼ぐことが期待できたわけです。しかし、MITは無料で授業を公開する決断をし、MIT方式は成功をおさめ、他の大学もそれに追随することになります。本書はこの詳細をケース・スタディーを通じて明らかにします。

本書は以下の章立てになっています。

1 Introduction: Context and Background
2 Early Experiments: Fathom and AllLearn
3 Free and Comprehensive: MIT’s OpenCourseWare
4 Digital Pedagogy: Carnegie Mellon’s Open Learning Initiative
5 Quality over Quantity: Open Yale Courses
6 A Grassroots Initative: webcast.berkeley
7 Closing the Gap in India: The National Programme on Technology
8 Conclusions
Epilogue: Implications for the Future

事例分析されているのは、Fathom (コロンビア大学が中心), AllLearn (オックスフォード大学、プリンストン大学、スタンフォード大学、エール大学), OCW (マサチューセッツ工科大学), OLI (カーネギーメロン大学), OYC (エール大学), webcast.berkeley (カリフォルニア大学バークレー校), NPT (インド)の7つです。

ちなみに本書はネットで閲覧できるので、興味のある方はお読みください(PDF)

話を戻します。

キャンパスに行かないでネットを通して授業を受け、単位をとり、学位を取得するオンライン学位プログラム(online degree program)はオープンコースウェアに含まれません。ネットで学位をとれる大学としての有名どころとして、

the University of Phoenix

the University of Maryland’s University College

Penn State’s World Campus

があげられます。 U.S. News & World Reportがオンラインプログラムのランキングを発表していますので、興味のある方は見てください(Best Online Bachelor’s Programs)

これに対し、OCWではネットで授業を聴講しても単位はもらえませんし、教授と交流することもできません。本書ではonline coursewareはinitiatives in which traditional degree-granting institutions convert course materials, originally designed for their own undergraduates, into non-credit-bearing online versions for the general public (p.1)と定義されていますが、4-5ページにかけて、OCWが学内の講義とは根本的に異なることを明確にしています。

But in the shift to online courseware, in which course materials are offered for enrichment only, the nature of the exchange becomes far more subtle—and complex. Many of these initiatives do not generate revenue for the universities, and none offers credit to the users. Online courseware requires no formal transaction, no relationship between the institution and its students. Neither group owes anything to the other: students (users) are under no obligation to give online courseware their full attention or to demonstrate any mastery over the material, and the professors and institutions that create the materials do not have to provide their audience with support in using them. (pp.4-5)

OCWは所属大学の学生だけでなく、誰でもインターネットを通じて利用できます。Open Yale Coursesの参加者であるDr. Ramamurti Shankarがthe Philadelphia Inquirerで述べたように“we can’t admit everybody to Yale, but we can give this to everybody absolutely for free” (p.11).

エリート大学がオンライン講座に注目した理由の一つに、オンライン学位プログラムを実施しているフェニックス大学の成功があります。2000年の在籍学生数は約10万人、2010年には45万人を超えます。また1997年頃からドットコム・バブル(dotcom bubble)が起き、既存のトップエリート大学もオンライン講座を開講して新たな収入源を獲得しようとします。最初に乗り出したのはコロンビア大学です。2000年にFathomをスタートします。 オックスフォード大学、プリンストン大学、エール大学、スタンフォード大学も2001年にthe Alliance for Lifelong Learningを共同で立ち上げます(2002年にAllLearnに名称が変更)。どちらも有料講座です。しかし、受講生は期待通りには集まらず、赤字続きでコロンビア大学は2001年に1490万ドルの予算を投じますが、有料講座の受講生は集まらず、たったの70万ドルの収入しか得られず、2003年1月に閉鎖されます。AllLearnはとくに加盟大学の卒業生をターゲットにします。4大学の卒業者数は47万人いましたが、これもうまくいかず2001年11月にはプリンストン大学が脱退し、2006年3月に完全閉鎖となります。エール大学のLinda Lorimerが言うように “people are not going to pay a lot for informal education” (p.56)だったわけです。ここでのinformalは、いくらお金を払ってオンライン講座を受講しても「単位」(credit)をもらえないという事を指します。これらのエリート大学が有料オンライン講座の修了者に単位を与えるようにすれば、受講者は一気に増えることが期待されます。つまり、オンライン講座の「フォーマル」化です。しかし、それは何万ドルもの学費を毎年払っている正規の学生に対して行われる学位プログラムを形骸化させるもろ刃の剣となります。

こういった状況の中で、MITはFathomとAllLearnの失敗の教訓を生かして、2002年9月にOpenCourseWareをスタートします。最初は32の講座数だったのが2003年9月には500に、2004年9月には900に増え、それと共に受講者数はうなぎのぼりに増えます。「失敗の教訓」とは何だったのか。それはinformal educationにはお金を払おうとしないのであれば、無料にすればよいということでした。

次回、MITのOpenCourseWareについて。

12月 6, 2015 · Pukuro · No Comments
Posted in: ■英語教材

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